熟成肉の歴史、発祥はアメリカ、日本でのブームはなぜ?
肉の旨みがぎゅっと凝縮していて、味わい深い熟成肉。
2015年頃にブームが起こった熟成肉ですが、なぜ日本で流行っていたのでしょうか?
今回は、
- 熟成肉がどこの国発祥か
- いつ日本でも食べられるようになったのか
- 熟成肉を美味しく食べるコツ
を徹底解説していきます。
熟成肉とは
近年、メディアでよく取り上げられるようになった熟成肉。
熟成肉はおいしいと話題ですが、普通のお肉と一体何が違うのでしょうか?
熟成肉は、温度や湿度などの一定の条件が整った環境のもとで寝かされたお肉のことで、「エイジングビーフ」とも呼ばれています。
徹底した環境下のもと正しい方法で熟成されたお肉はうまみが増し、柔らかな肉質になります。
お肉が本来持っている酵素の働きによって、たんぱく質がアミノ酸へと変わることで旨みが増すのです。
実は日本において熟成肉の明確な定義はまだないため、一晩冷蔵庫で寝かせただけでも「熟成肉」と名乗れてしまうのが現状です。
しかし、徹底された熟成環境でなければただの腐ったお肉になってしまうことも事実です。
熟成肉は、いつ・どこで発祥し、日本へ伝わったのでしょうか?
深く掘り下げてみましょう。
熟成肉の発祥はアメリカ
人類の食肉の文化は、紀元前約2万年前。
フランスの「ラスコーの洞窟の壁画」に記録が残っており、人々はこの時代から牛肉を食べていたと言われています。
熟成肉は、冷凍や冷蔵などの技術がまだなかった時代に、お肉を吊るして干して保管していたことが発祥と言われています。
この保存方法が現代の熟成方法のヒントに繋がったのかもしれません。
ドライエイジングの発祥
「ドライエイジング」は、その名の通りの「乾燥熟成」。
熟成肉を作るのに主流となっているこの方法は、1980年代のアメリカで発祥しました。
お肉の文化が強く根付いているアメリカでは、日本のサシ(霜降り)の入った柔らかな和牛とは違い、しっかりと噛み応えのある赤身肉がよく食べられています。
「赤身肉をいかに柔らかく、おいしく食べるか」というのが、熟成肉の出発点となっています。
アメリカで産まれたドライエイジングは、おおまかに3つの条件が必須になります。
- 一定の温度を保つ
- 一定の湿度を保つ
- 風を循環させ、お肉を乾燥させる
単に、この3つの条件がそろっていれば誰でも作れるものでもなく、その他にも細かな条件があるため、豊富な知識と高度な技術が求められます。
さまざまな条件をクリアして熟成されたお肉は、水分が飛ぶことにより質量は減るものの、たんぱく質が分解されアミノ酸(うまみ成分)へと変わり肉質が柔らかくなるのです。
日本の熟成の歴史
「ドライエイジング」はアメリカで考案された熟成方法ですが、「熟成」という言葉がまだ認知されていなかった時代、日本では「枯らし」という方法でお肉を熟成させていました。
ドライエイジングと似ている部分もありますが、枯らし熟成は枝肉をそのまま吊るし、一定の温度で保った冷蔵庫で寝かせる日本の伝統的な熟成方法です。
枯らし熟成は牛肉を長期保存するために考案され、かつて日本ではスタンダードな方法でした。
しかし時代の流れとともに「真空パック」という新しい技術が生まれて効率化を求められる世の中になり、作業効率が悪くコストパフォーマンスに優れない枯らし熟成方法は次第に行われなくなっていきます。
現在も手法をとっている肉の卸業者はほとんどいなくなり、希少な存在となってしまいました。
アメリカのエイジングビーフが伝わる前から、呼び名は違えど日本でも「熟成」という概念はあったのです。
食材をおいしく食べたいという探究心は、本来人間が持っている本能なのかもしれません。
日本に熟成肉が来たのは2014年頃
「熟成肉」という言葉が広まって日本でも認知され始め、メディアでも多く取り上げられてブームを巻き起こしたのは2014年頃。
誰が火付け役となり、日本で熟成肉ブームが起こったのでしょうか?
熟成肉は誰が広めた?
日本において、ドライエイジング熟成肉の第一人者として知られるのは「佐野佳治氏」。
お肉業界で有名な「さの萬」の代表取締役です。
佐野氏と熟成肉との出会いは、2006年。
ニューヨークにある全米一のステーキハウスで初めて熟成肉を食し、あまりのおいしさに感動したそうです。
翌年の2007年には、本格的に熟成肉について学ぶため自ら本場ニューヨークに足を運び、2008年には試行錯誤の末、さの萬初となるエイジングビーフ・熟成肉を完成させたのです。
2009年には、日本でひとりでも多くの人に熟成肉を知ってもらおうと「日本ドライエイジングビーフ普及協会」を発足。
2014年に功績が認められ、日本におけるドライエイジングビーフの先駆者的存在として「外食アワード2013」食材事業者部門を受賞されました。 地道な努力と大きな覚悟・情熱がなければ、なかなかできることではありません。
なぜ日本で肉ブームが来たの?
時を同じくして、2014年に初めて開催された「肉フェス」。
日常で、なかなか行けない名店や行列店を集めるというコンセプトのもと開催されたフードイベントです。
今となっては多種多様なフェスが各地で開催されていますが、グルメに特化したイベントが各地で開催され始めたのはちょうどこの頃でした。
肉フェスに行けば、日本の名店のみならず世界の肉料理も楽しめるという、まさにフードエンターテインメントなイベントの開催も、熟成肉の人気に火をつけるきっかけとなりました。
2015年には、大手グルメサイト「食べログ」の外食トレンドランキングで見事1位を獲得した熟成肉。 そ
の目新しさに、老若男女問わず日本中が注目したのです。
こうして2015年に空前の「肉ブーム」が日本中で巻き起こり、さまざまなメディアでも、引っ張りだこになりました。
当時の熟成肉の人気っぷりは飛ぶ鳥を落とす勢いでしたね。
熟成肉をおいしく食べるコツ
熟成肉の味を存分に楽しむには、塊肉のまま焼いて食べるステーキがおすすめです。
普通のお肉も熟成肉も、調理の過程で水分が飛んでしまうのは同じですが、熟成肉は製造過程で水分を抜くため、普通のお肉と比べるとそもそもの水分量が少なくなっています。
お肉から水分が出ると同時にうまみ成分も一緒に流れ出てしまうので、熟成肉は塊肉のまま調理するのがおすすめです。
お好みのソースで食べるのもおいしいですが、塩コショウは、お肉のポテンシャルを最大限に引き出してくれる、最高の調味料です。また、赤ワインなどのお酒にもよく合います。
熟成肉の焼き方のコツ
焼き方のポイントさえしっかり押さえておけば、自宅でも気軽に熟成肉を楽しむことができます。
焼き方のコツを紹介するので、もし熟成肉が手に入ったら、ぜひ試してみて下さい。
1.お肉を常温に戻しておく
お肉を常温に戻すことによって均一に火が通りやすくなるため、ステーキをおいしく焼く絶対条件と言っても過言ではありません。
常温に戻すか戻さないかで、仕上がりは雲泥の差になります。
季節や、お肉の厚みにもよりますが、最低でも調理する30分前には冷蔵庫から出しておきましょう。
2.塩は焼く直前に振る
ステーキ肉に振る塩には、3つの役割があります。
- 臭みを取る
- 浸透圧で余分な水分を出す
- 旨みを引き出す
早い段階で塩を振ってしまうと、必要な水分まで抜けてしまいパサついた食感のお肉になってしまうので、通常のお肉に比べて水分量が少ない熟成肉は焼く直前に塩を振るのがベストです。
塩を振って水分が出てしまった場合は、清潔な布やキッチンペーパーなどで拭き取ってください。
3.じっくり焼く
じっくり焼くのは、熟成肉ならではの焼き方です。
高温で焼くとお肉は急激に収縮するため、水分が抜けやすくなってしまいます。
通常のお肉は、高温で周りを焼きうまみを閉じ込めることが多いですが、熟成肉の場合は弱火〜中火でゆっくり時間をかけて焼きましょう。
4.お肉を休ませる
じっくり焼いたらお肉を火からおろし、アルミホイルなどで包んで休ませて余熱でじわじわと中まで火を通します。
焼きたてのお肉は中の水分が膨張し、パンパンに膨れます。
寝かさないまますぐ切ってしまうと一気にうまみが溢れ出してしまうため、旨みが逃げてしまい非常にもったいないのです。
うまみを中に閉じ込めるイメージでしっかり寝かせてくださいね。
早く食べたい気持ちを抑えて少し待てば、より一層おいしい熟成肉を堪能できます。
まとめ
現代、熟成方法の主流となっている「ドライエイジング」は、1980年代にアメリカで発祥した熟成方法です。
日本においてのドライエイジングの第一人者は、「さの萬」の代表取締役「佐野佳治氏」。
技術を日本に持ち込み、熟成肉の知名度を広めるのに貢献しました。
その背景で肉フェスが開催され、多くの人の関心を引きうなぎ上りに知名度が上がった熟成肉。
熟成肉の定義はまだないものの、どの時代も本物は必ず残り続けます。
通常のお肉に比べると価格は高くなりますが、熟成肉を見かけたら、ぜひ1度食べてみて下さい。新しいお肉の世界が広がりますよ。