牛を放牧で飼うことは珍しい?肉用牛の放牧畜産はたったの16%
「牛を育てるのは放牧スタイルが多い」と思っていませんか。
実は日本での放牧畜産は、16%ほどしか行われていないんです。
今回は、
・なぜ16%しか放牧スタイルがないのか
・放牧畜産スタイルの現状とメリット・デメリット
を解説します。
「放牧」の反対は「舎飼い」と呼びます。「放牧」と牛舎のなかで育てる「舎飼い」との違いを知って、お肉を選ぶ時のヒントにしてください。
放牧畜産とは
最初に「放牧畜産」は、どんなスタイルの牛の育て方なのかを解説します。
ひと言で説明すると「家畜を放し飼いにする」ことです。動物のストレスを少なくできるため、健康でおいしい畜産品が生まれるといわれています。
動物が養分たっぷりの草を食べて、フンや尿が肥料になり土を豊かにする循環型農業です。穀物をエサとして与えないため、輸入穀物に影響しません。国土資源を活かした経営スタイルとして、現在放牧畜産が注目されつつあります。
放牧には「経営内放牧」と「公共牧場」2つの放牧方法があります。経営内放牧は、自己所有の土地で行う放牧。公共牧場は、地方公共団体や農協などが所有する土地での放牧を指します。
放牧で育てられている肉用牛の64%が経営内放牧、36%が公共牧場です。公共牧場数の頭数は近年減少傾向にあります。
放牧畜産の現状
日本国内は再生利用困難な土地が多いため、放牧畜産できる土地が少ないです。
放牧畜産が盛んに行われているニュージーランドでは、長い期間を費やし自然草地を改良して優良な牧草地を手に入れました。改良によって、低コストで放牧畜産が可能になったのです。
日本で放牧畜産をする生産者にとってのメリットや課題について解説します。
放牧畜産のメリット
①牛が牧草を自分で探して食べるため、飼料をエサにする必要がなく、糞尿も牧草の肥料になる
②牛舎建設費・人件費の低減
③牛が運動することによりストレスが低減し、健康維持や繁殖能力の向上に繋がる
④山間部の耕作放棄地を再利用をすることで、地域の活性化に寄与する
⑤獣害の抑制
が挙げられます。
放牧畜産の課題
①放牧地となり得る広大な農地確保
②害虫駆除や放牧牛の捕獲運搬等の作業発生
③脱走や転落など放牧特有の事故発生に対する処置
④周辺住民との合意形成
が主な課題です。
メリットも多いのですが、クリアすべき難しい課題もあることが分かりますね。
放牧が環境にもたらす影響
放牧が環境にもたらす影響については、メリットとデメリットの両側面があります。
環境へのメリット
①機械による運搬が減り、二酸化炭素の排出を抑制できる
②穀物の生産・輸入にかかる資源の消費削減
穀物を牛に与える必要がないため、2つの問題を軽減できます。
過放牧による環境へのデメリット
過放牧とは、放牧する家畜の数が多すぎることによって、草の成長が家畜のエサの必要量に追いつかなくなる状態のことを言います。
①過剰な窒素による、牧草の生育への悪影響・水質汚染
②植物による炭素吸収量が減少し地温が上昇する
放牧が環境にもたらす影響はメリットもデメリットもあるため、どの程度がベストな放牧なのかを総合的に判断する必要があります。
生産者は放牧のメリットを受けたいけど、「過放牧による環境問題の指摘を外部から受けたらどうしよう」、「臭いや水質問題について周辺住民から苦情を受けないだろうか」と、課題が多いのが現状です。
放牧牛の特徴
次に放牧牛の特徴と、生産者から見るデメリットを解説します。
放牧牛は基本的に牧草牛です。牧草を中心に食べて育った牛肉を「グラスフェッドビーフ」、穀物を与えて育った牛肉を「グレインフェッドビーフ」と呼びます。
消費者視点のメリット
グラスフェッドビーフの特徴は赤身が多く、高タンパク質で低脂肪の肉質で、特にアスリートが好んで食べる肉として注目されています。「モモ・ヒレ・サーロイン・ランプ」が代表的な部位です。
口の中でとろけずに、噛めば噛むほど肉々しい味わいを楽しめます。
栄養素は、「ビタミンA」と「n-3系不飽和脂肪酸(オメガ3)」が多く含まれています。「オメガ3」は、 健康に良いと言われている「DHA・EPA」などの脂肪酸の総称です。
生産者視点のデメリット
続いて生産者から見るデメリットを解説します。
①肉の量が少ないため、価格が高くなる
栄養価が少ない草で育つため、穀物で育った牛に比べて3割の量しか肉が取れません。必然的に価格が高くなります。
②肉質が硬く、サシが入らない
牛の運動量が多いため赤身が多く肉が硬くなります。赤身肉が人気になってきているため、デメリットとしての要素は減りつつあります。
③広大な土地が必要
放牧牛を育てるには、牧場作りに時間と手間が掛かります。一頭の牛を育てるのに1ヘクタール必要となり、環境作りに10年以上掛かる場合もあります。
④流通方法が規制されている
魚と違い食肉は法律で流通が規制されており、「と畜※」できる場所が限られています。
みなさんの食卓に並ぶまでに、「と畜→部分肉加工→精肉加工」などの工程が必要なのです。「生産者個人でと畜と定期定量出荷できないこと」もクリアさせたい課題と捉えられています。
流通段階の課題への対策として、加工経費の削減や歩留まりの改善が重要ということも忘れてはいけません。人件費や穀物資源の問題を解決してくれる放牧牛ですが、まだ課題となっているデメリットも多いことがわかりましたね。
※と畜…牛・羊・豚・馬などを食肉用に解体すること
まとめ
放牧畜産について、生産者や環境の視点から、メリットやデメリットを解説してきました。
放牧畜産にはたくさんメリットがありますが、一方で生産者がクリアしたい課題は残されているのが現状です。安全でおいしい放牧牛を食べるために、生産者は試行錯誤しながら育てて肉にしています。
牛肉を食べるとき、「放牧牛」かどうか確認して食べるのもおもしろいかもしれません。牛肉に関する知識や牛の育て方についても理解を深め、お肉を選ぶ際のヒントにしてみてください。